
あなたの職場で、こんな会話が日常茶飯事になっていませんか?
「属人化」という言葉を耳にすると、多くの人が「解消すべき悪」だと感じることでしょう。
しかし、現場を支える総務の視点で見れば、すべての属人化を一概に否定することはできません。
なぜなら、そこには「替えのきかない専門性」というポジティブな側面も含まれているからです。
一方で、放置すれば組織を静かに、しかし確実に崩壊させる「負の属人化」が存在するのも事実です。
本記事では、総務の立場から長く現場を見続けてきた私の経験をもとに、
を現場目線で徹底解説していきます。
属人化の本当の意味とは?「悪」とされる正体を見極める
「属人化」という言葉を堅苦しく考えすぎていませんか?
言葉の定義に縛られると、問題の本質が見えなくなります。
現場で起こっている事象をシンプルに整理すると、実は次の2つの問いに集約されます。
この2点で考えると、解消すべき「悪」としての属人化がはっきりと見えてきます。
「各自でやった方が効率的」な業務の停滞
これらは決まって総務に依頼が来る内容です。
しかし、これらは本来、やり方や確認方法さえ共有されていれば、各自で完結できる「作業」です。
わざわざ総務というワンクッションを挟むことで、依頼する側も待つ時間が発生し、受ける側も本来の業務が中断されます。
こうした「誰でもできるはずなのに、特定の人しかやり方を知らない」状態こそが、効率を著しく下げる属人化の正体です。
特に、備品購入やPCの軽微な不具合対応などは、手順を公開するだけで総務の負担は劇的に減り、組織全体のスピードが上がります。
「急な欠勤」で業務がストップするリスク
もう一つの側面は、特定の社員が不在になった瞬間に、その部署やチーム全体がストップしてしまう状態です。
「毎日全員が出勤していること」を前提に組織が回っているため、急な病欠や冠婚葬祭などの際、誰もその業務に手を出せなくなります。
これは、現場が薄々とリスクを感じながらも、「今は回っているから」と見過ごしがちな問題です。
しかし、この状態は組織にとって「爆弾」を抱えているのと同じで危機管理の上でも見過ごせないポイントです。
「その人がいないと明日が不安」という職場環境は、健全な組織とは言えません。
属人化と専門性の決定的な違い
ここで混同してはならないのが「専門性」です。
例えば、経理担当者が簿記の知識を駆使して決算を行うのは、その人の「専門スキル」です。
誰でも明日から代われるものではなく、これを「属人化だ」と考えるのは違います。
本当の問題は、その専門性に付随する情報や手順、知識がブラックボックス化していることです。
「専門スキルがないとできない仕事」と、「手順を知らないからできない仕事」を切り分けて考える必要があります。
あなたにしかできない「判断」は専門性ですが、あなたしか知らない「ファイルの保存場所」は属人化なのです。
なぜ近年、属人化がこれほどまでに問題視されるのか
昔から属人化は存在しました。
しかし、なぜここ数年で急激に「属人化脱却」が叫ばれるようになったのでしょうか。
そこには、日本の企業を取り巻く環境の劇的な変化があります。
人材確保の困難と人件費の高騰
ひと昔前は、今よりも人材の確保が容易で、社員数にも余裕がありました。
専門性の高い業務には「補助」や「副担当」をつけることができ、自然とバックアップ体制が整っていたのです。
さらに基本給や社会保障費など、社員にかかる人件費も今より低く、採用費用も抑えられていました。
しかし現在は、労働人口の減少により採用コストは跳ね上がり、人件費も増大しています。
増員を躊躇する会社も多いでしょう。
企業は「最低限の人数で、最大限の効率」を求められるようになりました。
余剰人員を置けない状況下では、一人ひとりの業務が孤立しやすく、属人化が加速しやすい土壌ができあがってしまったのです。
「情報の共有化」に対する顧客意識の変化
私たちの日常を思い出してみてください。
例えば、役所に問い合わせをして自分の情報を確認しようとした際、「担当者が不在なので分かりません」と言われたらどう感じるでしょうか。
と不満を抱くはずです。
これは会社と取引先の関係でも同じです。
「担当者がいないから進捗が分からない」という言い訳は、現代のスピード感では通用しません。
情報の共有化ができていないことは、もはや組織としての信頼欠如に直結する時代なのです。
総務部長として社長の隣で見てきた「現場の限界」
私は長年、総務の現場から経営陣のすぐそばで会社の業績を見てきました。
業績が悪化する組織に共通するのは、現場の「見えない属人化」です。
一見、効率よく動いているように見えても、一人のキーマンが倒れた瞬間にパニックに陥る。
そんな脆い組織体制が、経営にどれほどのダメージを与えるかを、身をもって痛感してきました。
属人化とは、
という状態であり、組織が硬直化しているサインでもあります。
業務が属人化することで組織が被る致命的な弊害
属人化を放置した結果、どのような「崩壊」が待ち受けているのでしょうか。
単に「不便」というレベルを超えた、深刻なリスクを理解しておく必要があります。
属人化のリスクは、業務停止・情報断絶・優秀な社員への過度な依存にあります。
不在時の業務停止によるリスク
属人化が最も分かりやすく露呈するのが、担当者の「不在時」です。
有給休暇、急な体調不良、家族の事情。
理由は何であれ、担当者が一時的に不在になることは誰にでも起こり得ます。
しかし業務が属人化していると、その瞬間に仕事が止まります。
こうした状態では、周囲は手を出すことすらできず、業務が停止してしまいます。
休んでいても連絡がくる苦痛
本来であれば安心して休めるはずの有給休暇中にも連絡が入る。
体調不良で休んでいても、電話やチャットが止まらない。
これは個人の責任ではなく、組織設計の問題です。
属人化すると、休んでいても休めない状態になります。
一方で、複数の社員が業務内容を理解していればどうでしょうか。
手が空いている人に依頼しやすくなり、属人化を解消すれば、他の社員に頼ることもできるようになります。
業務の分散がしやすくなり、組織としての耐久力は確実に高まります。
その差は、日々の小さな共有を積み重ねているかどうかにあります。
退職・異動時の引き継ぎ不全と現場の混乱
属人化している社員が退職や異動をする際、十分な引き継ぎ期間が確保できるとは限りません。
特に急な退職の場合、後任者は「何が分からないかも分からない」状態に放り出されます。
また、1年に数回しか行わないようなレアな年次業務は、リアルタイムで共有される機会が少なく、いざその時期が来たときに「誰もやり方を知らない」という事態を招きます。
業務マニュアルや処理をするための情報もない、相談相手もいない現場は絶望感が漂うような空気になります。
優秀な社員ほど疲弊し、依存が強まる悪循環
業務スキルが高く、責任感が強い人ほど、周囲から頼りにされます。
その結果、特定の個人に業務が集中し、その人への依存度がさらに高まります。
この状態は、本人にとっても過度な負担となり、心身の疲弊を招きます。
「自分がいなければ回らない」という使命感が、いつしか「自分がいなければならない」という呪縛に変わり、結果として離職のリスクを高めるという皮肉な結果を招くのです。
優秀な人を守るためにこそ、属人化は解消しなければなりません。
属人化の唯一のメリットと、その前提条件
あえて属人化のメリットを挙げるなら、「周囲の社員が楽である」という点です。
「あの人に聞けばいい」という明確なルールがあるため、考える手間が省けます。
また、緊急時には、熟練の担当者が一人で判断して動く方が解決までのスピードが早いこともあります。
しかし、これらはすべて「その社員が出勤していること」が絶対条件です。
この一点が崩れた瞬間に、すべてのメリットは甚大なリスクへと反転します。
あなたの職場にも潜む「隠れ属人化」の正体
「うちはマニュアルがあるから大丈夫」と思っている職場ほど危ないのが「隠れ属人化」です。
これは悪意なく、むしろ「善意」から始まることが多いため、非常に厄介です。
好意が「依存」に変わる瞬間|Excel担当の悲劇
もともと持っている個人の得意な分野は、非常に仕事に置き換わりやすいものです。
例えば、Excelの関数に詳しい社員がいると、周囲は自然と質問をしに行きます。
最初は「ちょっと教えて」という会話から始まりますが、次第に現場では「Excelのことは〇〇さんに聞けばいい」という空気が定着します。
実は、私自身がこの状態でした。
初めは頼りにされることが嬉しく好意で対応していましたが、頻度が増えるにつれ自分の本来の業務が手につかなくなりました。
これこそが「隠れ属人化」です。
問い合わせが増えすぎると、本来の仕事ではないはずの「Excel対応」が、いつの間にかその人の「義務」になってしまうのです。
「自分でやったほうが早い」という心理的罠
なぜ業務は抱え込まれてしまうのでしょうか。
そこには社員の切実な本音があります。
しかし、一度共有してしまえば、その後の手間を考えると、教えるコストなど微々たるものです。
共有しないことで、自分自身が「休めない状態」に追い込まれていることに気づかなければなりません。
その「良かれ」が改善の機会を奪っている
属人化の最大の弊害は、「やり方が見えないため、非効率に誰も気づけない」ことです。
極端な例ですが、Excelでの集計作業を専属でやっている人が、実は「リストの数値を電卓を使って計算し手入力していた」としたらどう思いますか?
横から見ていれば「SUM関数を使えば一瞬だよ」と教えられますが、属人化しているとその非効率な工程すら闇の中です。
大事なことは、共有して他人の視点を入れることが組織の改善スピードを劇的に上げる唯一の方法という視点を持つことです。
属人化を解消し、「持続可能な組織」を作るための具体策
属人化の解消は、一朝一夕にはいきません。
しかし、放置すればするほど根は深くなります。
総務担当者として、あるいはマネージャーとして、今日から着手できる現実的なステップを紹介します。
共有すべき「知識・情報」の基準を設ける
すべての業務をマニュアル化するのは不可能です。
まずは、以下の基準で「共有すべきもの」を洗い出し棚卸しをしましょう。
逆に、システムの根幹に関わる設定など、セキュリティ上「誰でも触れてはいけない部分」は、共有の対象から外します。
WebサイトのURLの共有もナレッジ共有のひとつ
マニュアルを一から作るのは大変です。
時間がなければ、「やり方を紹介しているWebサイトのURLを紹介する」だけでも十分な対策になります。
私がExcel地獄から抜け出した方法もこれでした。
質問に来た人に対し、丁寧に解説されているサイトのURLを送り、「ここを見れば自分でできるようになりますよ」と伝えました。
これは拒絶ではなく、相手の知識を増やすメリットもあります。
知識を持つ人が増えれば相談先が分散され、結果として属人化が薄まっていくのです。
属人化を防ぐには、完璧なマニュアルではなく、小さなナレッジ共有を積み重ねることが何より重要です。
「初めての業務」をそのままにしない仕組み作り
属人化の多くは、新しく発生した業務や、初めて担当した社員がそのまま「専任」になってしまうことから始まります。
業務が完了したその場で、簡単なメモ程度でも良いのでマニュアル化しチームの共有フォルダに格納する。
この「終わった瞬間に型を作る」習慣が、属人化を防ぐ最強の防御策です。
属人化を解消する方法は、大きな改革ではなく「共有できる知識から共有すること」です。
共有フォルダで保存する意外にも、外部のナレッジサービスを活用することもスムーズな情報共有に有効です。
業務ナレッジを整理・共有するツール
事務的な業務を簡単にマニュアル化して、ナレッジツールに集めて共有すると便利です。
情報を蓄積して社員全体で共有することで、誰が対応しても結果の振れが少なくなります。
マニュアルが一か所にまとまっていれば、「誰に聞けばいいのか分からない」という状態も防げます。
代表的なナレッジ管理ツールは以下のようなものがあります。
中小企業であれば、まずはGoogleドライブやNotionのような導入ハードルの低いツールから始めるのがおすすめです。
いきなり大規模なナレッジシステムを導入する必要はありません。
ナレッジ管理は、ルールの整備や運用定着に時間がかかります。
だからこそ、まずは「試しに使ってみる」ことが大切です。
小さく始め、続けること。それが属人化を防ぐ確実な一歩になります。
Googleドライブの活用法についてはこちらの記事をチェックしてみてください。
【総務女性必見!】ITが苦手でも大丈夫!女性総務社員のためのGoogle Drive活用術と業務改善
専門業務こそ「アウトソーシング」を検討する
専門性が極めて高く、社内でのバックアップが物理的に不可能な場合は、外部の力を借りるのが最も賢明な判断です。
「人件費を考えると高いのでは?」と思われがちですが、採用コストや、万が一の業務停止リスク、教育コストを天秤にかければ、アウトソーシングの方が安く済むケースが多々あります。
メインの業務を外部に委託し、自社社員は「その管理・補助」というポジションに就くことで、業務のブラックボックス化を防ぎながら、安定した運用が可能になります。
まとめ:属人化解消は「小さな共有」から始まる
属人化の解消とは、決して「個人のスキルを奪うこと」ではありません。
むしろ、個人が持つ「知識」や「情報」という宝物を、組織全体の資産へと昇華させるプロセスです。
特に総務部門においては、日々の細かな「作業」を各自で完結できるように促すだけで組織のフットワークは驚くほど軽くなります。
「担当者がいないから分からない」という言葉が社内から消えたとき、あなたの会社は本当の意味で強い組織へと生まれ変わるはずです。
まずは、明日届く備品の購入ルートを、誰でも見られる場所にメモすることから始めてみませんか?
属人化が進むと業務の引継ぎがとても大変。実体験から紹介する注意点はこちらの記事をチェック。
【有備無患】社歴10年以上の総務が退職前にしておきたいこと|属人化・引き継ぎ対策のリアル体験
カテゴリー別に総務の現場で役立つ記事をまとめています

