
改正雇用保険法について、どのような内容が知っているでしょうか。
いくつかの改正ポイントがあるなかで、中小企業にとって特に重要なポイントがあります。
組織の変化や人の流出など、経営者をはじめ総務や人事、労務の方々も内容を理解しておく必要があります。
本記事では、改正雇用保険法の内容と中小企業が直面する近々の課題について解説していきます。
改正雇用保険法の改正内容
2024年5月10日に成立した「改正雇用保険法」、2025年4月から段階的に施行され、中小企業にとっては大きな影響を与えるものになっています。
労働者人口の減少や働き方の変化、賃金の上昇など今後、中小企業が生き残るうえでとても重要な内容となっています。
内容を理解したうえで職場環境の向上と社員満足度の充実を図っていかなければなりません。
今回の改正点を説明したうえで、会社側が社員の流出を防ぐために取り組むべき課題について解説します。
具体的な改正内容
自己都合離職者の給付制限の見直し
2024年4月より自己都合で退職した人が、ハローワークで失業給付(失業手当)を受ける場合、待期期間7日後の給付制限が2か月から1ヵ月に短縮されます。
※5年間で3回以上の自己都合離職の場合は給付制限期間が3ヶ月
基本手当の受給手続の流れ
(自己都合退職者)
| 離職 |
| ▼ |
| 求職申込・受給資格決定 |
| ▼ |
| 待期期間(7日間) |
| ▼ |
| 給付制限 【改正後】・2ヵ月から1ヵ月に短縮・教育訓練を行った場合は解除 |
| ▼ |
| 失業認定 |
| ▼ |
| 基本手当の支給 |
厚生労働省:「雇用保険法等の一部を改正する法律」の改正内容 より
また、離職期間中や離職日前1年以内に教育訓練を行った場合は給付制限自体なくなり、待期期間後にすぐ失業給付が支給されることになります。
給付制限が短縮されることで、離職後の転職活動も安心して行えます。
そうなると、転職時の金銭面の不安も軽減されるため、転職を考える社員も増えるかもしれません。
この改正は、社員の流出に大きな影響を与えるものです。特に、人手不足により最少人数で業務を回している中小企業などでは、社員一人の離職が死活問題にもなり兼ねません。そのため、記事後半で会社が取り組む課題として詳しく説明しています。
教育訓練やリ・スキリング支援の充実
2024年10月から教育訓練給付金の給付率の上限が受講費用の70%から80%に引き上げられます。
教育訓練給付金は2種類あり、専門的な訓練や講座を主とする「専門実践教育訓練」と速やかに再就職ができる訓練や講座を主とする「特定一般教育訓練」があります。
「専門実践教育訓練」を受講したのちに賃金が上昇した場合に受講費用が70%から80%に引き上げれれます。
「特定一般教育訓練」でも教育訓練を受講した後に資格を取得し再就職した場合、受講費用40%から50%に引き上げられます。
この改正により、転職や再就職を目的としたキャリア形成のための金銭的負担が軽減され、受講する人も増えると考えられます。
本来やりたい仕事に就きたいと考える社員は転職を考えるかもしれません。
【改正前】
| 専門実践 | 特定一般 | |
| 本体給付 | 50% | 40% |
| 追加給付① (資格取得等) | 20% | - |
| 追加給付② (賃金上昇) | - | - |
| 最大給付率 | 70% | 40% |
【改正後】
| 専門実践 | 特定一般 | |
| 本体給付 | 50% | 40% |
| 追加給付① (資格取得等) | 20% | 10% |
| 追加給付② (賃金上昇) | 10% | - |
| 最大給付率 | 80% | 50% |
【参考】現行の対象資格・講座の例
| 専門実践教育訓練給付金 | ・医療・社会福祉・保健衛生関係の専門資格(看護師、介護福祉士等) ・デジタル関連技術の習得講座(データサイエンティスト養成コース等) ・専門職大学院 等 |
| 特定一般教育訓練給付金 | ・運転免許関係(大型自動車第一種免許等) ・医療・社会福祉・保健衛生関係の講座(介護職員初任者研修等) 等 |
厚生労働省:「雇用保険法等の一部を改正する法律」の改正内容 より
教育訓練中の生活を支えるための給付の創設
労働者が自発的に上記のような教育訓練を受講するために会社を休む場合、その訓練期間中の生活費などが不安でなかなか受講できないケースがあります。
そのため、2025年10月1日より雇用保険被保険者であれば教育訓練を受講するために会社を休む(無給)場合に、基本手当に相当する給付として、賃金の一定割合を支給する教育訓練休暇給付金が創設されます。
【教育訓練休暇給付金】
| 対象者 | ・雇用保険被保険者 |
| 支給要件 | ・教育訓練のための休暇(無給)を取得すること。 ・被保険者期間が5年以上あること。 |
| 給付内容 | ・離職した場合に支給される基本手当の額と同じ。 ・給付日数は、被保険者期間に応じて90日、120日、150日のいずれか。 |
| 国庫負担 | ・給付に要する費用の1/4又は1/40(基本手当と同じ) |
厚生労働省:「雇用保険法等の一部を改正する法律」の改正内容 より
社員が職業訓練を希望した際の会社の対応
社員のなかで、この制度を活用し職業訓練を受ける希望があった場合、会社としてどのように対応するか考えなければなりません。特に、一時的に欠勤になるため、業務負担など他の社員への理解も得なければ希望者の要望に沿えなくなります。このような制度を活用したい社員がいる場合、会社としての協力や理解が必要です。会社からバックアップができるような体制作りが求められます。
雇用保険の適用拡大
現在、雇用保険の適用範囲は週の所定労働時間が20時間以上であったところが、2028年10月から10時間以上に改正されます。
週に10時間以上のため、週5日勤務であれば1日2時間以上、週4日勤務であれば1日2.5時間以上なのでほとんどのパート社員が該当するのではないでしょうか。
総務省の「労働力調査」ではこの改正により該当する労働者が約500万人と試算されています。
週間就業時間が20時間未満の雇用者数

総務省:労働力調査 より
この改正もパート社員にとって大きなポイントになります。雇用保険の適用範囲が拡大し、ほとんどのパート社員が該当することになるため離職時に「失業保険」が給付されることになります。この点についても記事後半で触れているので、是非最後まで読んでもらえたら嬉しいです。
今回の改正の背景
生産性の高い会社への転職促進
日本の労働人口は今後著しく減少していきます。
そのため、今回の離職時の失業給付の期間短縮は転職を促しているとも考えられ、生産性の低い会社で限られたマンパワーを浪費するのではなく、生産性の高い会社へ人を流していく狙いがあるように見えます。
特に記事冒頭で触れた「自己都合離職者の給付制限の見直し」については社員が転職しやすい内容となっているため、2025年4月以降は転職を考える社員が増えるかもしれません。
労働条件、給料が良い会社だけ残る
転職する人が増えれば、転職先候補となる会社は「労働環境」が良い会社になります。
「良い会社」とは福利厚生が充実していたり、コンプライアンスが徹底されている会社、さらに給料が高い会社です。
特に給与面では、優先度の高い項目になるため、賃金がなかなか上げられない会社にとっては不利になっていくうえに、退職者も増えてくる懸念があります。
さらに、人手が不足する現在では、辞めていく人が増えた場合、新しく採用することが難しいため人手不足が加速していきます。
人手が足らず、業務の効率化が図れていない会社にとっては非常に頭が痛い問題といえます。
ここがポイント!
転職を「本気」で考える?
2019年に働き方改革が施行され、従業員の働き方の意識が変わり、さらに新型コロナウイルスにより働き方の柔軟性が求められました。その結果、ユニークな規則や職場環境が増えており、いまの会社に不満があるような社員にとっては転職を考える時期がきているように思います。今回の転職を後押しするような改正によって、日本全体の従業員の流動が活発になると考えられます。
中小企業が直面する課題
賃金を上げ社員を確保する
資材や社会保険料の高騰、そこに賃上げとなると余裕がない会社が出てきます。
年々、賃上げをしている会社もありますが、なかなか踏み切れない会社も多いのではないでしょうか。
しかし、自社の事情があっても同業他社が賃上げを行い、他社の方が給料が良ければ社員は転職してしまうかもしれません。
経営者にとっては賃上げをしたいけれどできない、できないと社員が辞めてしまうという状況がすぐそこまで来ているのです。
ここがポイント!
社員が一番気にすることはやはり「賃金」
社員が働くうえで重要にしている点はさまざまあります。賃金や人間関係、仕事のやりがいや福利厚生などですが、やはり一番最優先することは「賃金」です。物価高や光熱費の高騰など、生活に直面する賃金が最優先されるのは自然のことです。また、同業であっても賃金が高い会社があればそちらに転職したいと考えることも自然なことであり、日ごろから転職先を検索しているかもしれません。そのため、厳しい状況であっても賃上げを考えることが急務といえます。
パート社員の流出を防ぐ
2028年4月には週10時間以上勤務のパート社員へも雇用保険の適用範囲が広がります。
雇用保険を払うことになると同時に、パート社員へも離職時に失業給付が支給されることになり、転職の機会が増える可能性があるということです。
数十名規模でパート社員を雇用している会社にとっては、パート社員の役割も大きなものになっています。
賃上げや労働環境の向上による離職防止や、離職時の対策として、人手がかからない仕組み作りなど、多くの課題があります。
連鎖退職を防ぐ
今回の改正により、2025年4月以降に退職を希望する社員が出てきたとき、残された社員も転職を考える可能性があります。
なぜならば、社員が一人辞めてしまうとその社員が担っていた業務を誰かがやらなければならず、負担になってしまうからです。
また、心理的に「辞める人が増えたら業務が忙しくなる」と考えてしまい同時に転職を考えてしまうこともあります。
つまり、連鎖的に退職者が出てしまう懸念です。
この負の連鎖になってしまうと、組織の崩壊スピードも速くなり事業の存続にも関わります。
これは、昨今の採用難も手伝っており、決して起こりえないことでもないと認識するべきことです。
そのため、離職に繋がらないように、社員が会社に満足しているかを正確に把握しておくことがとても重要になります。
会社がすぐに取り組むべき2つのポイント
現在、世間では「賃上げ」の風潮が強まっていますが、実際には賃上げを実行することが難しい企業も多いのではないでしょうか。
そんな中、賃上げに踏み切る前に、会社がすぐに取り組むべきポイントを2つご紹介します。
経費の見直しと社員満足度の向上
まずは無駄な経費がないかを再度見直してみましょう。
社員は、会社が無駄な経費を使っている一方で賃上げをしないことに非常に敏感です。
そのため、決して多額の経費削減を目指す必要はありません。
社員が「無駄だ」と感じている経費を見直し、少額であってもその分を福利厚生の充実や職場環境の改善に回すことで、社員の満足度を向上させ、離職を防ぐ対策を講じましょう。
職場環境の再調査
次に、職場の「人間関係」を再調査することが重要です。
離職理由の上位に挙げられるのが人間関係の問題です。
社員によっては、給与よりも職場の人間関係が退職の決め手となることもあります。
そのため、現場でのパワハラやモラハラの有無を注意深く確認することが必要です。
転職を考えた場合、職場環境が良ければ転職先での人間関係の不安が増すため、社員は転職をリスクとして感じることもあります。
給与だけではなく、職場環境を整備することも離職防止に繋がります。
最後に
2025年以降の改正雇用保険法は、中小企業にとって大きな試練となる一方、働きやすい職場環境を整える好機でもあります。
賃金や労働環境の改善を通じて、社員の定着率を高め、競争力を維持する取り組みが不可欠です。
転職市場が活性化する中、優秀な人材を引き付け、定着させるための会社作りはとても重要になってきます。
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